中国「個人情報保護法」の「特定身份」について大手会計事務所コンサルの訳が間違っていた件
中国「個人情報保護法」第二十八条には「敏感个人信息(センシティブ個人情報)」の定義が次のように書かれている。(太字は筆者)
第二十八条 敏感个人信息是一旦泄露或者非法使用,容易导致自然人的人格尊严受到侵害或者人身、财产安全受到危害的个人信息,包括生物识别、宗教信仰、特定身份、医疗健康、金融账户、行踪轨迹等信息,以及不满十四周岁未成年人的个人信息。
ここにある「特定身份」について、日本語で中国「個人情報保護法」を紹介する資料にたびたび誤りを見つけるのだが、最近また大手会計事務所のコンサルの資料が「特定のID」という意味不明の訳をつけていた。「特定のID」ではなぜセンシティブなのか分からないだろう。
正解は、分かりやすいところでは例えば下記の司法試験受験者向けサイトに書いてある。
ここでは刑法との関連で「自然人的特定身份(自然人の特定の身分)」について解説されている。
「身份」によって犯罪の構成要件や量刑が変わるという文脈で、「自然人身份的范围(自然人の身分の範囲)」の一部として「特定身份的种类(特定身分の種類)」が列挙されている。
特定の公職:国家公務員、司法職員
特定の職業:航空職員、医療職員
特定の法的義務:納税者、租税徴収義務者
特定の法的地位:証人、鑑定人、犯罪者、容疑者、被告人など
特定の物品の保有者:法に基づいて配備された公務用銃器を持つ者
ある種の活動の参加者:入札者、会社の発起人
特定疾病の患者:重症の性病患者
居住地と特定組織:国外の反社会的集団の構成員
中国「個人情報保護法」で「特定身份」と言っているのはこういう意味での特定の身分のことである。(なお「重症の性病患者」とはAIDS患者などを指すらしい)
こういう意味での「身份」に当てはまるかどうかが「敏感(センシティブ)」だというのは納得できるだろう。
筆者は中国刑法について詳しくないが、刑法における「身份」について検索すると同様の解説ページが山ほど見つかる。
ということで、「特定のID」などといった意味不明の訳語はつけないでほしい。