ぬるきゅー(ぬるめのセキュリティ日記)

気になったセキュリティ関連ニュースのぬるめのメモ

台湾の軍事オタク大学生が公開情報だけから人民解放軍の基地地図を作った件

台湾東呉大学音楽学科の温約瑟さんが、公開情報だけで中国大陸にある人民解放軍基地の地図を作り上げ、ネットに公開したという件。

台湾メディアでは大々的に取り上げられているが、日本で取り上げたのは台湾中央通訊社の日本語版サイトくらいだったようだ。後追いで日本メディアも取り上げる可能性はあるが。

japan.focustaiwan.tw

こちらが同じ中央通訊社の現地記事。

www.cna.com.tw

ちなみに温約瑟さんの「約瑟」は中国語でJoseph(ジョゼフ)の音訳。

中央通訊社の日本語版記事は要約されすぎているので、その他台湾メディアの記事で補足すると以下のようになる。

news.ttv.com.tw

www.setn.com

  • 温さんは今回の地図について、汪浩が司会を務め、産経新聞台北支局長・矢板明夫氏が出演する中華電視の番組『三国演義』に招かれて経緯を語った。
  • 2020年発行の中国の軍事雑誌『艦船知識』が「台湾兵力部署概略図」を公開し、「攻台必備(台湾攻撃に必携)」としていたことから、軍事オタクとして解放軍基地の地図を作ろうと思い立ったとのこと。昨年6月にネットに公開した。

  • 着手したときは空軍基地だけにするつもりだった。

  • 基地の所在地の確認は大きく二種類の方法。

  • 一つは、ウィキペディアの公開資料、中国掲示板「百度」のネット民の書き込みなどによるもの。

  • もう一つは、軍用車両、標語、建築物の配置など軍用施設の特徴から衛星写真などを使って肉眼で判読したもの。

  • その他、海外や台湾軍の軍事大学の論文も参照。

  • 例えば「百度」をヒントにした中では、対台湾第一線集団軍について、軍営のそばに貯水池があるという書き込みから、アモイ市全体で軍営に隣接するの貯水池は坂頭水庫だけだったため、軍部の所在地を確認できた。(ちなみに「百度」で検索するとアモイ市バス909番線に乗ると坂頭軍部まで行けるらしい)

  • その他、中国中央電視台が公式にリークした(官泄)写真で、建築物の上に二筋の天窓があり、これが信陽基地の特徴と一致したため666旅団の位置が特定できた。

(注: 「官泄」とは中国のネットスラングで、各種メディアや中国国外の軍事関連刊行物に意図的に軍事情報を漏らし、実力を示すことで国外からの脅威に対抗する手法)

baike.baidu.com

  • ただしこの種の方法は誤認率が高く、以前、刑務所を軍営と誤認したときにはネット民に指摘を受けたこともある。

  • 温さん曰く、作成した資料は自力で一つひとつ確認したものだが、全世界のインテリジェンス部門はもっと正確な情報を持っているはずなので、一般に公開することにした。台湾の若い学生たちは、情報の質を識別し、何が本当に有用な情報かを判断する能力を高めるべきだ。

以上が中央通訊社の日本語記事を、台湾現地メディアの記事で補足した内容になる。

ところで、この件について大陸側の反応はほぼ皆無。中国版ツイッター「ウェイボー(微博)」で直接言及したツイートは3つだけで、コメント数も無視できる数だった。季節的に大学入試の結果発表の方がはるかに重要らしい。

3つのツイートのうち最もまともなのはこちら。それでもコメントは7つしかついていない。

台湾での報道がほぼそのまま要約されている。軍営のそばの貯水池をヒントにした件や、衛星写真から肉眼で判別したエピソードの大筋も引用されている。

ただ、最後の締めとしてツイート主が付けている感想は、台湾のニュースとは違ってこうなっている。

この台湾の学生が作った地図が正確かどうかにかかわらず、スパイ行為をされないよう機密を守るのは一人ひとりに責任があり、軍にかかわる情報を決してネット上に無暗に公開してはいけない(訳注:「防奸」は「防間」の誤記と思われる)

また、このツイートには温さんが今回の地図を作るきっかけになった、中国の軍事雑誌の台湾軍所在地図も貼られている。

個人的に注意すべきだと思ったのは、台湾メディアが反中・対独観点で煽りすぎている部分は差し引く必要があること。例えばこの件にかかわらずくれぐれも『大紀元』を真面目に読まないように。

そして中国から見るとこの件はあくまで同じ中国国内の一人の軍事オタク大学生のエピソードであって、台湾独立派大学生による反体制運動という話にはならないということだ。

以上、今回の件に関する追加情報と個人的感想でした。誤りのご指摘は大歓迎です。