ぬるきゅー(ぬるめのセキュリティ日記)

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中国「インターネットコメントサービス管理規定」2022年改正パブコメ草案は2017年からどう変わったのか

中国サイバースペース管理局(互联网信息办公室 CAC)が、2017年に制定された「インターネットコメントサービス管理規定(互联网跟帖评论服务管理规定)」について、2022/6/17に改定のパブコメ草案を公開した。パブコメとはいえおそらく大きな変更なく施行されるだろう。

2017/10/01施行版 互联网跟帖评论服务管理规定-中共中央网络安全和信息化委员会办公室

2022/06/17 パブコメ国家互联网信息办公室关于《互联网跟帖评论服务管理规定(修订草案征求意见稿)》公开征求意见的通知-中共中央网络安全和信息化委员会办公室

Twitterでとある技術系の中国人レポーターの方が旧第五条、新第四条の中にある「前审后发(先に審査してから公開する)」という言葉に注目していた。

コメントは検閲が済むまで公開してはならないという意味だが、じつはこの言葉は2017年版にすでに存在する。

では2017年版に対して2022年パブコメ版では何が変わったのか、例によってWinMergeで検証してみた。

記事の最後に比較対照のしやすさを優先してあえて条文の前後を入れ替えた対比図を貼っておく。

結論から言うと「前审后发(前審後発)」という言葉は2017年版にすでに存在するが、2022年版では「新闻信息(ニュース情報)」を提供するサイトのコメント欄について、という限定がなくなっている。

そして2017年版にあった「新闻信息」という言葉は2022年版からは消えている。

逆に2017年に一つもなかった「公众账号」という言葉が2022年版には複数回あらわれ、これを規制する条文が増えている(第七条、第十条、第十一条、第十二条)。この言葉はWeChatなどSNSの公式アカウントを指している。

世論への影響力で2017年段階ではニュース情報サイトが大きかったが、今はWeChatなどSNSの公式アカウントがより重要な言論規制の対象になったということだろう。

したがってポイントは「前审后发(前審後発)」自体ではなく、検閲の対象がニュースサイトからSNSに変わったことなのだ。

参考までにその他の点を見てみると、「后台实名、前台自愿」、つまり、ユーザー登録時は実名申告が必須だが、サービスの表側ではハンドルネームでもいいという実名制はすでに2017年版で導入されており、今回も変化はない。表側でも実名の公表を強制してしまうと個人情報保護法と矛盾するためと思われる。

また、冒頭で「中国サイバーセキュリティ法」など2017年以降に成立した法律が参照されているのも当然だろう。

そして、2017年にはなかった「社会主义核心价值观(社会主義の核心的価値観)」という言葉が2022年版で追加さているのはいかにも習近平政権といったところ。

それ以外にとくに本質的な違いは見つけられなかったが、筆者が見落としている点があればご指摘歓迎いたします。

もちろん法律が大きく変化していなくても、実際に運用されるときに2017年当時より恣意的になり、検閲がより厳しくなることはあるだろうし、現にそうなっているはずだ。

中国のネット検閲は言論の自由の観点から論外なわけだが、5年前と比べて何が変化しているかについては正確に把握すべき、というお話でした。